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広島高等裁判所 昭和54年(ラ)42号 決定

抗告人 山下クニエ

相手方 川中和

主文

一  原審判を次のとおり変更する。

(一)  相手方は抗告人に対し、財産分与として別紙目録記載の不動産を分与せよ。

(二)  相手方は抗告人に対し、右不動産を明渡せ。

二  抗告費用は相手方の負担とする。

理由

一  抗告人は、「原審判を取消す。相手方は抗告人に対し、別紙目録記載の不動産(以下、○○○の土地建物という。)を分与せよ。抗告費用は相手方の負担とする。」との裁判を求めた。

二  財産分与の基礎となる事実関係

(一)  抗告人と相手方とが結婚後、離婚に至るまでの経過、双方の収入及び財産関係、離婚後の情況等についての当裁判所の認定は、次の点を附加するほか、原審判のそれと同一であるから、右部分(原審判五枚目表七行目から、同一四枚目裏五行目まで)を引用する。

(二)  原審判挙示の証拠に、当審における抗告人及び相手方審尋の結果を綜合すれば、次の事実が認められる。

1  抗告人と相手方とは昭和四二年四月に結婚したが、同年中の抗告人の収入は約四五万円、相手方のそれは約五四万円で以後昭和四四年までは、両者の収入に著しい開きはなく、相手方の収入が抗告人のそれを二割ないし三割程度上廻る状態であつた。当時借家住いであつた両名は、持家取得を第一目標にし、特に家計を預る抗告人は、極力出費を切りつめて蓄財に努め、昭和四四年一二月長女出産後も、翌年七月までその子を実家に預けて勤務を続けるなどして、結婚後三年間で○○○の土地建物を購入するに至つた。

2  昭和五〇年秋から、○○○の建物の増改築にかかつたが、相手方は勤務の都合等で一切手伝わず、当時妊娠中で半日勤務であつた抗告人がひとりで工事の準備、工事人との応待、後かたづけ等に心身を労し、それが長男出産後の異常事態を招く原因ともなつた。

3  抗告人は、昭和五〇年一二月二六日、出産のため長女を連れて実家に帰つた(以後相手方とは別居のまま昭和五四年三月二七日調停離婚となる。)が、昭和五一年四月五日から、昭和五三年四月四日まで、育児休職となり、その間全く収入がなかつた。これに対し、相手方は、昭和五一年四月から昭和五三年一月までの二二か月間に合計一〇五万八三八四円(一か月平均四万八〇〇〇円余)を送金したが、抗告人ら親子三名の生活費、長女の教育費には不十分で、不足分は実家の援助を受けた。

4  ○○○の土地建物の購入及び増改築のための借入金五口(原審判一三枚目表七行目以下に記載のもの)については、昭和五〇年一二月まで抗告人が分割金を返済していたが、昭和五一年から、そのうち住宅金融公庫に対する二口分(月額合計二万五〇〇〇円)を相手方が、その他の分を抗告人が返済することになり、○○○○共済会に対するものは昭和五五年一月で返済が終り、現在、抗告人は○○○○共済組合に対する二口分(月額合計四五八八円)を返済している。

5  抗告人から相手方に対する離婚による慰藉料請求訴訟事件(広島地方裁判所呉支部昭和五二年(タ)第七号)については、昭和五四年一二月二四日請求棄却の判決があり、右判決は確定した。

6  相手方は、昭和五五年二月から○○営業所勤務となり、○○○の住所地から通勤している。

三  当裁判所の判断

叙上認定の事実によると、抗告人及び相手方が結婚後取得した不動産、有価証券類、自動車、預金等の財産は、すべて両名の共働きによる収入によつて蓄積されたものであり、名義のいかんを問わず、両名の共同財産であると認められる。そして、結婚後三年間の両名の収入には大差がなく、昭和四五年以降抗告人の収入が減少したのは、長女の出産、育児によるものであり、抗告人が勤務の傍ら家庭にあつては家事及び育児に専心し、家計のやりくりをして蓄財に努めた点を考慮すると、右財産形成に対する抗告人の寄与の割合は、五割を下ることはないものというべきである。

そこで、共同財産の現況、別居から離婚に至るまでの婚姻費用の分担情況、双方の生活状態及び分与に関する希望、○○○の土地建物の取得及び維持については、資金の借入その他において抗告人の尽力に負うところが大きいことその他本件に顕われた一切の事情を勘案すると、相手方から抗告人に対し、現に抗告人の所有名義である○○○の土地建物を分与させると共にこれを明渡すことを命じ、右不動産に関する借入金は今後抗告人に全部返済させることとし、その余の財産はすべて相手方に取得させるのが相当である。

四  よつて、これと結論を異にする原審判を変更し、抗告費用は相手方に負担させることとして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 胡田勲 裁判官 土屋重雄 大西浅雄)

目録

一 所在 福山市○○○×丁目

地番 ×××番×××

地目 宅地

地積 二四〇m2八九

二 所在福山市○○○×丁目×××番地の×××

家屋番号 ×××番×××

種類 居宅

構造 木造瓦スレート葺二階建

床面積 一階六六m2七一 二階四六m2三九

以上

〔参照〕 原審(広島家呉支 昭五四(家)一七二号 昭五四・八・一審判)〈省略〉

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